高島市来訪
今回は滋賀県高島市。今回は、といっても実際に訪れたのは今年のGWである。
2017年5月31日現在の高島市は人口は49,920人で、一度市になれば、その地位が剥奪されることはないものの、市としての5万人の基準を下回っている。他方、面積は琵琶湖を含めれば滋賀県最大とのこと。
市名の由来は下記の通り。かなり昔から「たかしま」と呼ばれていたようで、かつてあったと思われる神社の名前に由来しているようだ。
現在の高島市全域の旧郡名で、「高島郡」の名称は、郡という行政区画が成立した奈良時代ころから使われていたと思われます。古くは「万葉集」や「和名抄」などにも登場し、読みは「太加之萬」と記されることから、早い時期から「タカシマ」の呼称が定着していたようです。一説には、三尾国(現在の市南部域と思われる)に高島宮があり、これが高島の名前の起こりになったともいわれています。
今回、高島市に来たのは針江地区に行ってみたかったからである。
湧き水の郷
その針江は琵琶湖のほとりにある。湧き水がそこかしこに湧き、水路となって集落を流れる。水路は各家庭に引き込まれ生活用水として利用される。このシステムは「かばた(川端)」と呼ばれる。
このかばたシステムだが、きれいな湧き水も生活用水として使えば汚れる。水路にはコケも生える。そのまま放置すればかばたシステムは機能不全に陥ってしまう。
そうした水に流した残飯やコケを食べてもらうため、各家庭や水路に鯉が飼われている。ガイドさんによると集落には130戸程度が存在し、うち100超の世帯にかばたが設けられているとのこと。
どのような苦労を経て、このシステムができたのだろうか?いきなり上手くいったとは考えにくい。上手くいくためには誰もがちゃんと管理するだろうという信頼関係が構築されなければならない。川上に位置する家庭が過剰に水を汚せば下流の人が迷惑を被る。表立っては言わないが、ルール違反者には何らかの罰則(恐らくは金銭的というよりは村八分的な社会的な罰則)がある、またはあったのではないか。かつてあったとしたら、ルールを破るような人はすでに他所に行って、ルールを守る人だけが今では選抜される。ゆえに現代ではさほど苦労なくシステムが維持されているのかもしれない。
↑かばた。家の中である。
↑別の家のかばただが、こういった感じで家の中に鯉が泳ぐ。湧き水のそばだと水がきれい過ぎて鯉が棲めないため、ニジマスを放している家も。飼っている鯉やニジマスを食べることはないようだ。
繰り返し囚人のジレンマゲームによって水利システム管理を説明する
ルール形成に際して、代官や役所がルールを作って地域に強制したわけではなかろう。その意味では上位権力によるルール設定・実施ではなく、地域での暮らしを効率的にするために、地域レベルで自発的に発生したシステムだろうと考えられる。
これを繰り返し囚人のジレンマゲームで説明してみたい。
囚人のジレンマゲームは、互いが協力したほうが全体として利益が最大化されるにもかかわらず、一方が裏切りによって利益を得られる選択肢(そして、それによって相手が最も不利益を被る)がある場合、互いが自分が最悪の結果になることを回避しようと合理的に行動すると、双方が裏切りを選択し、結局、全体の利益が最大化しないという非合理的な結果になるというジレンマを説明する理論である。
ただし、これは一回きり、またはいずれ終局を迎える場合を想定した話である。もし、予想しうるしばらくの間、互いの関係が継続すると双方が予想する場合、そして互いがしっぺ返し戦略(相手の選択と同じ選択をする戦略。相手が協力すれば自分も協力、相手が裏切れば自分も裏切る)を採用すれば、双方が協力を選ぶことが知られている。自分が裏切ることで短期的な利益は得られるが、相手との関係が続く場合、相手からも裏切りという仕返しを受ける。そうすると、自分は協力よりも低い利益しか得られないから、非協力が続くようであれば、いつまでも低い利益しか得られない。したがって、敢えて非協力を選ぶインセンティブが生じなくなる。
非協力を選ぶと相手からと協力してもらえなくなる。汚れた水を垂れ流せば、地域から排除されるといった仕返しを受けることになる。反対に水をキレイに使うというルールの維持に協力すれば、地域の中で安定的に暮らし続けることができる。もちろん、本当はルールを破っているが、ルールを遵守しているフリをすることもできるが、水質維持ルールは、違反しているかどうかは水の汚れを見ればすぐにバレてしまう。下流の人は真っ先に気づくし、黙っているメリットはほとんどないから、すぐに苦情を言い、結果ルール違反は即座に判明し、ルール違反者は社会的制裁を受ける。
社会的制裁の事例が積み重なれば、ルール違反のデメリットは周知されるから、ますますルール違反の可能性は減少する。NHKで放映されてから訪問者が増えているそうで、そうなれば観光資源としてますます維持するメリットが上がる。さらに地元への誇りや愛着が増せば、それこそ損得抜きにシステム維持のヤル気が出るというものだ。
針江は水の郷として観光地としても美しい場所だが、人がどのようにルールを形成し、維持しているのか、そういったアカデミックな思考を刺激する場所である。
↑試飲できる湧き水もある。な〜んとなく味の違いはわかった
↑次の目的地おごと温泉に向かう途中の車窓から
レイクサイドのホテルで
ちなみに時間としては前後するが、高島市ではこの宿に泊まった。全室ではないが、たまたまレイクビューの部屋に泊まれた。隣には大型スーパーやコンビニもあって便利
今津サンブリッジホテル公式ホームページ|滋賀県高島市の琵琶湖畔でのご宿泊は当ホテルで!
高島市は日本の集落の協力関係構築メカニズムに思いを馳せることのできる素晴らしい場所であった。
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