全国すべての市を制覇する旅に出た猫

日本にはたくさんの魅力ある市があるにもかかわらず、なかなか探訪する機会がないので、コツコツ全国の市に訪問してみようと思いました。このブログはそんな訪問の記録。

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いい地名ってなんだろう??

最低でも週に一回どこかの市を訪ねてみたいと思っていたのだが、海外出張が重なってしまいなかなか週末にどこかに行けなくなっている。


このままではブログを書く習慣付けが難しくなってしまうから、何かしらの番外編を書くことした。


番外編として海外の市を紹介するのもありだが、番外編として企画するほどには海外出張に行かないし、たくさんの市に行くわけでもない。なので、海外の市の紹介はやめて、今後の市制覇に役立ちそうな本を読んで、それをまとめてみようと思う。


名著や定番の本から始めるべきかもしれないが、この分野でどういった本や研究者が有名かはまだわからないので、選択はランダムだ。柳田国男もわかろうが、気持ち的にハードルがたあいので、いずれ、、、ということにしたい。


さて、今回は田中宣一氏の『名づけの民俗学』(吉川弘文館、2014年)だ。田中氏は成城大学の名誉教授で、他には『年中行事の研究』や『祀りを乞う神々』などの著作がある。


名づけの民俗学 (歴史文化ライブラリー)

名づけの民俗学 (歴史文化ライブラリー)


目次は以下のとおり。


モノの名前

物に名をつけること

 命名の研究

 言葉の力

生活から地名が生まれる

 地名への関心

 山の名前

 川の名前

 海の名前

 耕作地の名前

 災害と地名

地域の名前

 公的地名

 新しい公的地名

家の名、人の名

 家の名

 名前と人格

 近代の名前

 名づけの民俗学

さまざまな名前

 風の名

 魚の名

 蝸牛

 大学名

現代の命名事情


現代の市名に特に関連するのは、公的地名の部分だろう。


市名を含む公的地名には様々な名付けられ方や由来があるが、田中氏は以下のように分類する。


都道府県名(98-99頁)

1.旧藩名・城・城下町の名前:秋田、山形、福島、富山、福井、静岡、大阪、和歌山、鳥取、岡山、広島、山口、徳島、高知、福岡、佐賀、熊本、鹿児島

2.郡の名前:岩手、宮城、茨城、群馬、埼玉、山梨、愛知、滋賀、島根、香川、大分、宮崎

3.町村名:青森、千葉、神奈川、新潟、長野、兵庫、奈良、長崎

4.初期の県庁所在地名:栃木、石川、三重

5.都市名:京都

6.旧国名:愛媛

7.島名:沖縄

8.その他:北海道、東京、岐阜


市町村名を含む地名分類(115-116頁)

Ⅰ. 自然地形

1.地形や土地の性質

2.気象条件

3.動植物名

4.災害など自然の変化

Ⅱ.文化地名

5.開墾・土地利用

6.神仏名

7.建造物や建造物の関係者

8.農漁工商などの生業や産物

9.伝説や歴史的事柄

Ⅲ.期待地名

10.土地への希望やそこでの生活の抱負・期待


前回の熱海市のブログでも取り上げたが、平成の大合併で新造された名前はこの本でも取り上げられている。


http://mtautumn.hatenablog.com/entry/2017/01/15/233850


たとえば、南アルプス市伊豆市伊豆の国市などがそれで、そのほか太平洋市黒潮市、中央アルプス市、天草シオマネキ市、ブルー奄美市といった実現しなかった珍地名も取り上げられている。これらは珍地名で必ず取り上げられるから、衆目一致の珍地名なのだろう。


歴史に由来せず、想いが込められた新造地名もある。以前訪問した神奈川県大和市もその一つで、村名決定で意見が割れたため、合併後仲良くやるよう、「大いに和する」との意から名付けられた地名である。


http://mtautumn.hatenablog.com/entry/2017/01/09/094623


こうした和を尊重した地名には、山口県大和町(現在の光市)、神奈川県睦合町(現在の厚木市)、熊本県天草郡五和町(現在の天草市)、愛知県美和町(現在のあま市)、熊本県三加和町(現在の和泉町)、愛知県中島郡平和町(現在の稲沢市)などがそうである。


また、今後の発展を祈ってつけられた地名としては、愛知県弥富市島根県那賀郡弥栄村(現在の浜田市)などがある(106-109頁)。


新興住宅街によくある、青葉区青葉台、あざみ野、藤が丘、桂台、若竹町なども、もともとそれらの植物が繁茂していた、というよりは、地域がそうした美しい雰囲気になるようつけられた地名であるという(109-110頁)。


こうした期待や想いが先行する新造地名は批判や嘲笑の対象になりやすい。


しかしながら、田中氏のこれらの地名に対する眼差しは暖かい。


「宅地開発によって、歴史を持つ大字名や字名が消えるという由々しき事態は生じているものの、新たな名のり的命名による地名が増え、それらには住民の意気込みや夢が盛り込まれていて悪くない」(111頁)


もちろん、命名由来は得てして後付けで、命名プロセスを詳しく知っている人からすれば、そう簡単には受け入れられない事情もあるのだろう。


それに私だって、珍地名を見たときにはキラキラネームを見たときのような衝撃を覚えるのも事実だ。


とはいえ、名前に縁起をかつぎたいと思うのは人間が感情を持つ生き物だからであり、ときとしてそれが一風変わった名前を生むことにつながるのだとしても、新たに誕生した名前を温かく見守るのもありではないだろうか。


田中氏の本を読んで、私はそう思うのである。


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